高知医療センター石井隆之先生がミステリー小説を上梓されました
支部会員である石井隆之先生(高知医療センター総合診療科)が渡川鷹之のペンネームでミステリー小説を上梓されました。終末期医療のあり方にも一石を投じる内容で、高知新聞でも紹介されました。
ぜひ、お手に取っていただければと思います。
今回、石井先生にお願いし、ご著書の紹介文を寄稿いただきました。
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作品紹介 「有明月の月下美人」 渡川鷹之(ペンネーム)
月下美人の神々しい花は、子供時代に実家で何回か見たことがありました。当時はたくさん咲かせると高知新聞に写真付きで紹介されていましたので、ひょっとしたら取材に来てくれないかなと、少し期待していたことを今も覚えています。
拙著は救急医毛利慎吾と介護職員橘百合のミステリー小説です。医療現場の話はもちろん出てきますが、私の大好きな高知の風景も随所に出てきますので、ぜひお楽しみください。
作品を書きたいと思ったきっかけは、本編にも出てきますが、「ルーカス3(心臓マッサージ機)」による衝撃的な医療現場を目撃したことです。まるで餅でもつくかのように、無機質な機械音とともに老女の脆弱な胸郭を圧迫し続けます。
「100歳近い老女に、なんてムゴイことを……」
「大往生とはほど遠い……」そう感じました。
末期癌についてはガイドラインに緩和治療を奨励する記載がきちんとありますが、認知症など末期がん以外の超高齢者の終末期(老衰?)については、やんわりとしか記載がありません。
今日の医療現場では、超高齢者の終末期医療について、いろいろ意見はあっても、空気の読み過ぎなのか誰も何も言えない状態のように思えます。特に心肺停止時の蘇生術については、必要性に疑問を抱きながら、流れ作業を淡々とこなすだけ。悲しいことに、訴えられないようにすることが大前提です。多忙なこともあり、医療者の思考回路はほぼ停止してしまっています。高齢者の尊厳なんて考えている余裕はありません。それどころか救急車で運ばれてくる高齢者を厄介者扱いする医師さえいます。
「いったいどうすれば安らかな最期を迎えられるのか?」
国が進めるACP(人生会議)を絡めた、人生の最後をどうありたいかを考える動きはゆっくりですが確実に普及しつつあります。それに伴い、人生の終末期の在り方について、いろいろな論文や書籍が発表されています。しかし、一般の方が読むとなるとややハードルが高いように感じます。
「せっかく頑張って論文や書籍にしても、なかなか読んでくれないんだろうなぁ。だったら小説にしてみよう!それもみんなが好きなミステリー風で」と思ったわけです。かなりきわどい表現や、読者によっては非常に不快に感じる部分もありますので、大炎上するかもしれないと不安でしたが、そうなったら今の病院を辞める覚悟でした(幸いこの原稿を書いている時点では馘にはなっていません)。
厳しい評価を心配していたのですが、「面白くて勉強になる、もう10回以上読んだよ」、「事前指示書を書きたいのだけど、どうしたらいいの?」など、ご近所のシニアマダムさん達からは、たくさんの温かいお言葉を頂きました。なかには友達や家族に読ませるといって数冊買っていかれる方もいました。うれしくて涙が出ます。
特別養護老人ホームの実情については、現場で働く看護師さんや介護士さんの話を参考にさせて頂きました。快く取材に協力頂いた皆様には感謝の言葉しかありません。医療職、介護職はもちろんですが、なるだけ多くの一般の方に読んで頂きたい。この作品が終末医療を考えるきっかけになってくれたら、こんな嬉しいことはありません。
(高知医療センター総合診療科 石井隆之)
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